2024年 8月 の投稿一覧

サステナビリティ経営のための政策対応

サステナビリティ経営は従来のCSRと異なり経済価値、社会価値及び環境価値を同期させるものとされています。言い換えると、サステナビリティ経営をする方が稼ぐ力も大きくなるような状態を目指すものとされています。そのために開示を通じた投資家や一般社会からのプレッシャーも活用して企業のサステナビリティ経営の水準を高める方針が示されています。
もっとも、政府等により様々なガイダンスや好事例が示されたとしても、それらを導入して稼ぐ力にポジティブな影響を持つに至るまでには相当のコスト負担に耐える必要がある場合も多いと思われます。また、理念先行で演繹的にメニューを作ると経済合理性やビジネス合理性とはかけ離れたものになるリスクもあります。
やはり常に各メニューの影響を検証し、望ましくないものは廃止することとし、また、外部不経済があるものについては課税等によって内部化する等の経済学的対応を行うことにより、全体としてできるだけ合理的な取り組みとなるようにする必要があると考えます。

公教育の供給不足による格差拡大

かつて東京等に学校群制度がありました。最も不適切な政策の一つだったと思います。
これは公立高校間の格差を是正しようとして導入当時に偏差値が高かった高校と低かった高校をペアにした群を設け、受験は個別の高校ではなく群について行うというものでした。そうすると高偏差値高校に行きたくても同じ群のもう一方の高校に行かなければならない可能性も相当あり、高偏差値高校に行きたかった層はやむなく私立や国立に流れるか、公立高校には行くが大学受験のために塾にも通うことになりました。
これはハイレベルな教育を受けたいというニーズがあるのに公教育では供給しないこととした結果、民間が供給することになったもので、公立高校間の格差をなくせば問題解決と考えていた政策担当者等の認識不足でした。結局私立の学校や塾の費用を賄える層のみがハイレベルな教育を受けられるという格差拡大になりました。

所得控除は金持ち優遇か

民主党政権最初の税制改正において「現行所得税の所得控除制度は、結果として、高所得者に有利な制度となっています。なぜなら同額の所得を収入から控除した場合、高所得者に適用される限界税率が高いことから高所得者の負担軽減額は大きくなる一方で、低い税率の適用される低所得者の実質的な軽減額は小さくなるからです。」(平成22年度税制改正大綱第3章2.(1)④)とされ、様々な所得控除の廃止が決まりました。
しかしこれは正しいのでしょうか。
まず負担軽減額ですが、高所得者の方が大きくなるのは累進課税によって負担額が大きいからであって、所得控除部分の負担がゼロになるという意味では所得の水準にかかわらず同じです。
それでもやはり軽減額が問題ということなら所得の上から控除するのではなくて下から控除すればよいと思います。
例えば所得2,000万円の納税者Aと所得500万円の納税者Bがいるとして、現行制度は所得控除200万円を上から控除してAは1,800万円、Bは300万円として累進税率を適用するため、Aは1,800-2,000万円の高い税率での200万円分、Bは300-500万円の低い税率での200万円分の控除になりますが、下から控除すればどちらも同じ税率です。
具体的には、控除があっても総額は変わらず2,000万円として税額計算、更に200万円にかかる税額を計算し、前者から控除します。これが担税力がない部分という所得控除の理論的性質にもフィットすると思います。

働き方改革の問題点

働き方改革関連法の大きな柱は長時間労働抑制や休暇取得促進で、労働投入量を減らしてアウトプットは維持することで生産性が上がることが期待されています。
令和2年度年次経済財政報告における効果検証で実際に効果はあったとされていますが、効果の検証は中長期的に行う必要があると考えます。最低限達成すべき目標を超えて新しい成果を得ようとする時や労働者個人やチームの技術向上を図る時にはどうしても試行錯誤になるのでその時には時間がかかり短期的な生産性は低下しますが、奏功すれば中長期的には生産性は向上します。逆に短期的な生産性ばかりを追求すると上記のような取り組みができなくなり、中長期的には生産性は低下するリスクがあります。実際に効率的にできる慣れた仕事以外はしない傾向が出てきたとの話を聞きます。
また、短期的な評価においても、真に成果で評価するのであれば時間を規制するのは目的と手段がずれていると言えます。得ようとする成果によってはかなり時間をかけざるを得ないものもあるからです。時々労働時間を評価するのではなく成果で評価するから長時間労働をしないようにするとの議論がありますが、上記の通り論理的とは言えません。成果による評価と中長期的視野で企業の競争力が真に向上するような働き方を模索していくべきと考えます。

財政政策の独立性

中央銀行が行う金融政策の決定については独立性が認められるのがスタンダードになっていますが、財政政策については民主的統制が重視され、最終的な決定権は議会にあるのが通例です。
しかし、特に小選挙区制の下では財政規律は緩みがちであり、何らかの独立財政機関の必要性が主張され、英国予算責任庁、米国議会予算局など実際に活動されている例もあります。
ただ、これらは予算の前提となる経済見通し作成、中長期の財政推計、財政政策に関わる政策評価などを担うもので、財政政策の決定を行うわけではありません。
さすがに個別の予算や税制改正の内容を独立機関が決定するのはやり過ぎですが、各年度の予算のフレームは独立財政機関が経済学等の知見を踏まえて決定することはできるのではないでしょうか。そうすると金融政策の独立性と同等になります。

金融政策の正常化

日銀が7月31日の金融政策決定会合で追加利上げと国債買い入れ額の減額の計画を決定しましたが、18年前の量的緩和解除後最初の利上げを思い出しました。
当時も予め設定していた解除の条件が満たされたことを確認してまず2006年3月に金融政策の操作目標を日銀当座預金残高から無担保コール翌日物金利に戻し、当座預金残高を所要準備額まで緩やかに減らした上で7月に利上げしました。
違っているのは当時は欧米も連続的利上げ局面にあったのに対し、今回は欧米は逆に利下げ局面ということで、そのような中で金融引き締め方向の政策決定ができたということが当時短期間所属させていただいた者として感慨深いものがあります。引き続きブレることなく合理的な政策運営を期待します。

金融市場調節方針の変更および長期国債買入れの減額計画の決定について