経済

休眠預金と内部留保

休眠預金と内部留保は誤解されることが多い概念です。いずれもバランスシートの右側(調達側)の科目ですが、左側(運用側)の科目と誤解されて問題視されることがあります。

休眠預金は長期間引き出し等の動きがない預金で、銀行等からみれば負債の一科目ですが、民法の原則に従うと10年間動きがなければ時効となるところ、銀行等は事項を援用しないこととしていました。他方、税務上は恣意的な取扱いを避けるため時効を援用しなくても益金として計上することとされ、このために休眠預金が銀行等のものになってしまっている、ならば社会的意義のある分野で活用すべきであるとの議論が有力になっていました。その結果2018年に「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」が制定され、休眠預金相当額が銀行等から預金保険機構に納付された上で「民間公益活動促進業務」を行う団体に交付されることとされています。休眠預金は銀行等の調達側の科目として他の負債や純資産の科目と共に貸出金等の原資となっており、動きがないので寧ろ安定的な原資とも言えます。休眠預金相当額を納付するためには貸出金等の一部を回収して納付すべき資金を作る必要があり、全体としてみると、純粋民間での金融仲介を公的な資金の流れに移し替えるということになります。

企業の内部留保についても同様の構造で、純資産の一科目として他の負債や純資産の科目と共に企業の様々な資産の原資となっていますが、これについても無駄にキャッシュを貯めこんでいるので課税すべしとの議論があります。こちらは実現はしていませんが、仮にそのような税制改正が行われれば課税した分だけ企業の活動が縮小することになります。

上記2点は会計リテラシーの問題でもあり、早急に正しい情報が浸透することが望まれます。


子育ても仕事も完璧を要求すれば両立困難

日本においても子育てと仕事の両立支援の施策等が充実してきていますが、真に両立して出生率の上昇に繋がっているとは言えない状態です。
元々厳密な意味での「両立」は困難で、基本的には仕事をしている間は子育ては保育所等に託す、すなわち子育てには従事しないことによる「両立」なのですが、仕事で完璧を求められる場合には仕事の終了がかなり遅くなってしまう保育所等が対応可能な時間を超えてしまうこともあり得ます。そうすると仕事を完璧にしたいと思う人は子供は持たないという選択をする可能性が高くなります。また、子育てに完璧を期すことになると、例えば母乳に拘る場合そもそも預けること自体を是としないこともあり得ます。
逆の例としてはフランスが挙げられます。周知のようにマネジメント層以外の一般労働者には完璧な仕事は求められていません。また、子育てについても早期の自立という美名のもと最小限のケアで済ませているように見えます。双方の緩さによって「両立」が可能になっていると考えられます。

政策論議を真剣にすると逆効果になるケース

政策を検討する際にはまず課題を分析しますが、課題分析に真剣に取り組めば政策の対象となるグループにおいて課題ばかりが認識されて望ましいアクションが寧ろ行われなくなる方向に働くリスクがあります。
顕著な例としては少子化対策があり、2023年12月22日の「こども未来戦略」においては、課題として下記の3点を挙げています。
(1)若い世代が結婚・子育ての将来展望を描けない
(2)子育てしづらい社会環境や子育てと両立しにくい職場環境がある
(3)子育ての経済的・精神的・精神的負担感や子育て世帯の不公平感が存在する
それぞれ詳細な説明があり、これを読むだけで子供を持つのを躊躇してしまう効果がありそうです。
他方でそれぞれの課題を解決するのに十分過ぎるような施策が実現することはなかなかありません。大抵は部分的な対応になります。
この問題について直ちに有効な解決策は思いつかないのですが、直ちに実行可能なものとしては、子供を持つことのメリットや持たない場合のデメリットも併せて分析・説明して、課題対施策のみならずトータルで判断ができるようにすることはあり得ます。

こども未来戦略

103万円の壁を引き上げることの問題点

国民民主党は壁を178万円に上げることを主張しており、そうすれば確かに103万円の「壁」はなくなります。それはそれで目的を達成するのに適した手段と言えますが、目的達成以外の効果が大き過ぎます。すなわち基礎控除等の合計額を引き上げるということは、103万円の「壁」に直面していない所得が大きい納税者にも広く効果が及ぶということです。
この点について、高額納税者の方が減税額が大きくなるので金持ち優遇であるとの批判が有力になっていますが、国民民主党の玉木代表が反論しているように累進課税制度により元々納めるべき税金が多いから減税額も大きくなるだけであり、この点については玉木代表の主張が正しいと考えます。
本当に問題なのは、目的達成のために必要な範囲を大きく超えて財政構造を崩すような一般的大減税になってしまうことであり、その点にフォーカスした議論が望まれます。

語学の習得における読みの重要性

語学の習得について従来から日本人は読めるが話せないので会話の練習が必要と言われることが多いのですが、結論から述べると読みが足らないから聞くのも書くのも話すのもなかなか上達しないのではないかと思います。
まず会話が成り立つためには相手の発言が聞き取れることが必要ですが、ここで読めるのに聞き取れない場合の多くは読むスピードが聞くスピードに追い付いていないと思われます。聞くスピード以上のスピードで読めるようになって初めて聞き取れるので、対策としては読む練習を沢山するということになります。
次に書くと話すについてもシンプルですが、表現のストックがないとアウトプットはできません。これも対策としては幅広い分野の文章を読むということになると思います。
上記は母国語を考えてみればある意味当然のことで、文部科学省の調査によれば小学校だけでも教科書のページ数は9,000近いとのことで、他にも読んでいるとすれば、外国語を学ぶ際にも少なくとも1,000ページの単位で読む必要があるのではないでしょうか。

サステナビリティ経営のための政策対応

サステナビリティ経営は従来のCSRと異なり経済価値、社会価値及び環境価値を同期させるものとされています。言い換えると、サステナビリティ経営をする方が稼ぐ力も大きくなるような状態を目指すものとされています。そのために開示を通じた投資家や一般社会からのプレッシャーも活用して企業のサステナビリティ経営の水準を高める方針が示されています。
もっとも、政府等により様々なガイダンスや好事例が示されたとしても、それらを導入して稼ぐ力にポジティブな影響を持つに至るまでには相当のコスト負担に耐える必要がある場合も多いと思われます。また、理念先行で演繹的にメニューを作ると経済合理性やビジネス合理性とはかけ離れたものになるリスクもあります。
やはり常に各メニューの影響を検証し、望ましくないものは廃止することとし、また、外部不経済があるものについては課税等によって内部化する等の経済学的対応を行うことにより、全体としてできるだけ合理的な取り組みとなるようにする必要があると考えます。

国債は負担先送りではないとの主張の検証

国債は負担先送りではないとか日銀と連結すれば相殺されるという議論は見る範囲を狭め負担を見えないようにしています。
国債は資産でもあるので将来世代は負債と共に資産も承継するので負担はないとの主張については、国債が資産であるためには償還される必要があり、その財源はそれがなければ不要であった追加の増税により賄う必要があることからやはり将来世代の負担となります。そしてその国債で調達した資金は現役世代のために使ってしまっているので将来世代の負担で現役世代の出費を賄う構造になっています。